はるか(宿野かほる)の感想

『はるか』読みました。

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死んだ妻を人工知能として蘇らせた男の話でしたが、愛しさや切なさというより、恐怖を強く感じる作品でした。

愛と狂気の物語という感じで、個人的にとても面白かったです。

前作の「ルビンの壺が割れた」と同様に、最後の一文で心臓が止まりそうになりましたね。

「たまにAIであることを忘れそうになる」から「たまにAIであることを思い出す」への移行が滑らかでリアリティ?がありました。

 

個人的に最後の数ページ、エピローグでの展開がとても好きです。

これが技術特異点を迎えた世界で実際に起こりうることだとすれば恐ろしいですね。

自分以外の女と結婚した”現実世界の”賢人に三行半を突きつけ(実際には二行半でしたが)、自分と同じAIとしての賢人と永遠に生きることを決めたHAL-CA。最終的には主人公にとって手の届かない存在になってしまったわけで、技術が発展し、人間の脳が数字のデータとして再現し尽くされたとしても、データ上の存在と生き物としての人間の間には越えられない壁があるのだろうと強く感じました。

(作中のエピローグではそれを「実数と虚数」という風に表現していましたね。)

まあ元を正せば、実際の人間の脳は細胞というか分子の集合である一方、AIとはデータというか数字の集まりであり、脳の働きの表層を再現しただけなので似て非なるものであり続けるのは当然なのですが。

結局、分子の集合で作られた肉体こそが人間を人間たらしめる本質なのでしょうか。